あいかわらず絶えることがない冤罪事件。
自分の経験や実感の範囲では全く身に覚えのない犯行なのに、冤罪被害者はなぜ一度は「自分がやりました」と認めてしまうのでしょう?
その原因は全くの密室である取調室で行われる出来事にありました。
刑事ドラマ・キントリこと「緊急取調室」では、取り調べ内容が全方向のビデオで撮影され記録される設定でしたが、現実の取調室では相変わらず完全密室でその中を知ることはできません。
数々の冤罪事件に関わった心理学者浜田寿美男さんの著書「取調室の心理学」などの本を参考にウソの供述を読む冤罪について考察してみました。
コンビニ強盗に間違えられた音楽ユニットMic Sun LifeのSUN-DYUの場合
テレビ東京のバラエティ番組「じっくり聞いタロウ~スター近況(秘)報告~」ではコンビニ号との冤罪で300日も拘留されたSUN-DYUさんが赤裸々にその体験を語っていました。SUN-DYUさんは友だちの家に泊まったある朝、母から電話を受けてすぐに家に帰るように伝えられます。
慌てて自宅に帰ると家の前にはワゴン車とスーツを着た複数の男たちが……一体、何事?と思って家に入ると、そこにもスーツの男が数人いました。
SUN-DYUさんを見るやスーツの男の1人は「何の要件で着たか分かるよな」と詰め寄ります。
何のことかさっぱり分からないSUN-DYUさんは「わかりません」と答えると、おもむろに男が取り出したのは逮捕状でした。昨夜起きた近所のコンビニ強盗の容疑者として逮捕されてしまったのです。
全く身に覚えがないので、黙秘しておけば大丈夫と弁護士からアドバイスされたSUN-DYUさんは黙秘をしますが、最初は大人しい態度だった刑事が拘留から1週間を過ぎてから豹変し、急に大声をあげて怒鳴って、人間のクズ呼ばわりされます。
連日「おまえが犯人だ!」と言われ続けると不思議なことに、ある瞬間から、だんだんと自分の記憶に自信がもてなくなっていき……あれ?本当に俺がやったのかも?と思ってくるようです。
警察側はSUN-DYUの犯行の証拠として持っていたのはコンビニの自動ドアの外側に着いた左指の指紋でした。SUN-DYUさんは若い頃にやんちゃをして警察に捕まり、そこで指紋を採取されていたのです。その指紋がSUN-DYUさんが濡れ衣を被る原因でした。
コンビニの防犯カメラにはパーカーのフードを被った犯人の背中しか映っていませんでした。
犯人は店員を脅してレジが出させた1万円を左手に持って、コンビニを出ているので、自動ドアの外側に左指の指紋が着くのはどうしたって不自然。
しかし、警察側は背中側からしか見えないため、つじつま合わせをして強引にSUN-DYUさんの罪にしようとします。取り調べ期間の約22日の後、なんとSUN-DYUさんは300日も留置場に拘留されることになりました。その後、SUN-DYUさんは犯行時刻に他の場所にいたというアリバイが証明されて、無事釈放されました。
ウソの自白を証明する無知の暴露とは?
よく事件ドラマで、刑事が言葉巧みに誘導して、真犯人しか知らない事実をしゃべらせる方法を「秘密の暴露」と言いますが、冤罪被害者はウソの自白をすると、元々犯人じゃないので、無理矢理刑事にデタラメの供述を言わされているので、証言につじつまが合わない所がボロボロと出てくるワケです。これを「無知の暴露」と言って、これが証明されると無実が証明できます。
冤罪を生み出す証拠なき確信
浜田さんは冤罪を生み出す原因に捜査陣が陥りがちな原因に「証拠なき確信」を挙げています。かくたる決めてもないのに最初に「コイツが犯人だ!」と思い込んでしまって、まず犯人ありきで捜査をして、そこから小さな証拠が出てくると、証拠の人を犯人だと決めつけてしまい。
あとは全ての状況をこの人が犯人であると、ねじ曲げて証拠を固めていくというのです。その最たるものが指紋です。
SUN-DYUさんも事件現場で採取された指紋で唯一特定できたのが、SUN-DYUさんのものだったと言うだけで、SUN-DYUさんが犯人であるという前提で捜査が行われています。
ウソの自白を生む作られた記憶
意図的にはないにせよ、取調室の中はマインドコントロールそっくりな状況になります。
家の中にあるものが突然なくなったときになくした犯人された経験はありませんか?
たとえば、リモコンや爪切りや耳かきなど……
「え? 私じゃないよ」と思っていても、家族に確信をもって追求されると、「いや、そうかもしれない」と自分の記憶に自信が持てなくなります。
とくに、何度か自分が本当になくしていると、ますます自分でも確信がもてなくなります。
取調室の中でもそのように「作られた記憶」を作られます。
人間の脳内には正確に正しい記憶があって、それが時間が経過するうちに奥に隠れてしまっているだけで、正しく記憶を掘り起こせば正しい記憶がよみがえる……と思いがちですが、実は人間の記憶というものは無数の空白があり、その記憶とつなぐためにウソでツギハギするというのです。
海外の事例では、心の不調に悩む女性たちがとある心理カウンセラーが分析を行ったときに、全て父親から性的虐待をされており、その記憶を本人が封印していると説かれました。
そして、女性達は次々に実の父を性的虐待で訴えました。
このように記憶は、案外と曖昧なもので、いくらでも書き換えられるようです。
トラブルにはできるだけ近寄らない。これが一番のようです。