沢村一輝さん主演の「絶対零度未然犯罪潜入捜査」という刑事ドラマでは AI が事前に犯罪を起こす容疑者を特定。容疑者の身辺に身分を隠して事前に犯罪を防止すると言う画期的なドラマでした。
SFかと思うような設定ですが、まんざらフィクションではなさそうです。アメリカではすでにドラマと同じようなビッグデータを駆使した犯罪捜査が行われているようです。それはまた住民のすべてを監視するディストピアを描く SF 小説のような世界です。
アンドリュー・ガスリー・ファーガソン著「監視大国アメリカ」から、日本の将来の捜査を考察します。
ビッグデータはどこから採取されるのか?
コンピュータ技術の発達でかつては考えられないほどの膨大なデータを所有できるようになり、またそのデータを活用できるように技術も発展してきました。
そして、そのビッグデータを提供しているのは他ならぬ私たち一人一人です。
そのつもりはなくても日々パソコンやスマホを利用しているだけで、あなたの指で動かしたアプリ、移動すればマップなど、膨大なデータが吸い取られています。
とある人妻が自分の妊娠を知った理由
「監視大国アメリカ」ではビッグデータがどのように活用されているかを1人の人妻の経験で例えられています。
その人妻は自分が妊娠したことをスマホを操作しているうちに知ったと言います。
ネットの広告や、ちらりと見た記事に妊娠や出産に関わるサービスやアイテムの情報ばかりになっていたのです。
AIが過去に妊娠した人が読んだ記事やサイトをデータで蓄積しており、人妻が過去妊娠した人と同じような記事やサイトを見ていることを解析して、同じような情報を自動的に流したというのです。
このように膨大なデータを収集するキャパとそれを解析する技術があれば、どんなことにも活用が可能になります。
それを犯罪抑止のためにも応用が効くのです。
未然犯罪はどのように防ぐのか?
では、実際にビッグデータを活用して、どのように犯罪を抑止するのでしょう?
さすがに「絶対零度」のように特定の容疑者を徹底的にマークまでできないようです。
さすがに「この人が近々犯行します」などと1人の人に特定はできません。
そこで「集中抑止」という手法を使います。
犯罪が発生しそうなネットワークに絞って、少しずつ解体に持って行きます。
直接、捕まえるのではなくて、遠回しにじっくりと事件を防いでいく手法です。
犯行しそうな容疑者、あるいは犯罪に被害者のリストを「ヒートリスト」を活用します。
そのリストに絞って犯罪を抑止するアプローチを行うと確実に効果があることが分かりました。とくに銃発砲など暴力事件に効果を発揮しました。
ここで面白いのが犯罪を罰のようなもので抑止しようとしたシカゴでは、検挙率は増えても逆に犯罪を助長し結果的に犯罪発生率は逆に多くなったことです。
シカゴでは犯罪に関わりそうな人に警告し、社会福祉制度の利用を提供し、提供を拒んだ場合罰則を与えるものでした。
逆にニューオリンズでは、ビッグデータがはじき出した人物の周辺で、これまた遠回しに、行政がメンターの指導、父親講座、行動療法など社会福祉制度を充実させて、住民達のケアを行うと、殺人事件が20%以上減少しました。
ビッグデータを取り扱う仕事でも、環境に厳しく接すると逆効果で、優しく接すると効果があるのがあるようです。
ビッグデータの弊害・より格差が広がり、巨悪が見逃される
ビッグデータは犯罪抑止に効果がある分、弊害もあります。
データとは即ち過去の蓄積なので、それまでの犯罪傾向や逮捕履歴をそのまま受け継ぐことになります。
アメリカで犯罪を起こすのは、やはり、有色人種であり低所得者であり教育レベルが低く、犯罪が発生する地域も特定されます。
ビッグデータを集積することで、犯罪に関与していなくてもその地域の人に対する差別が助長されることになります。
逆に、犯罪が見逃されがちな富裕層や高学歴の人の犯罪は、これまで以上に見逃されるようになります。
ビッグデータでは今まで見過ごされすぎだった犯罪者を、見つけ出す――というドラマのような展開にはならないようです。
ビッグデータは警察側にとっても諸刃の剣だった
捜査に利用されるビッグデータは別名ブラックデータと呼ばれ、人種差別、犯罪が助長され、人がんじがらめに縛るようです。
縛りがあるのは一般人だけでなくて、警察官にも適応されてブルーデータと呼ばれています。
黒人に対する暴行を行った警官も、全ての警官がトラブルを起こしているのではなく、特定の傾向のある警官が特定の状況でトラブルが発生していることもデータの解析であきらかになっています。
NHKで常に地域の住民に溶け込むベテラン刑事の定年退職の様子を描いたドキュメンタリー番組が放送されましたが、人とのふれ合いがなくなり、データだけで人間を管理・監視する社会に既になりつつあるようです。