現在、パートナーの浮気・不倫、DV、モラハラに苦しんでいる方にぜひ観ていただきたい映画があります。それが、1993年に公開されたハリウッド映画『TINA/ティナ』です。
この作品は、「ロックの女王」と呼ばれ、2023年に83歳で亡くなった伝説的シンガーティナ・ターナーの自伝『愛は傷だらけ(I, Tina)』を原作に、彼女の半生を描いた映画です。主演のアンジェラ・バゼットは、アフリカ系アメリカ人女性として初めてゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。その演技力と表現力は圧巻で、観る者の心を強く揺さぶります。
ティナがアイクの支配から抜け出せなかった理由
1939年、アメリカ南部の貧しい農村に生まれたティナ(本名:アンナ・メイ・ブロック)は、幼少期から苦難に満ちた人生を歩みます。両親の不仲により家庭は崩壊し、彼女は祖母の元で育てられました。だが、その祖母も早くに亡くなり、彼女は孤独の中で生きる術を学びます。
母を頼りにセントルイスへ移り住んだティナは、ある夜訪れたナイトクラブで、運命の人物アイク・ターナーと出会います。アイクは当時すでに人気バンドのリーダーであり、カリスマ的存在でした。彼のステージに飛び入りで参加したティナの歌声は、その場にいた全員の心を掴み、アイクに見出されて音楽の道を歩み始めます。
やがて2人は「アイク&ティナ・ターナー」としてデビューし、数々のヒット曲を生み出します。しかし、公の場では輝かしいスターカップルだった2人の関係は、私生活では完全に支配と服従の関係に変わっていました。
DVとモラハラの実態
アイクは表向きの成功とは裏腹に、プレッシャーや不安を薬物で紛らわすようになり、そのストレスは全てティナに向けられます。暴力は日常茶飯事であり、金銭的にも完全にコントロールされ、ティナの手元には一銭も入らないという極限の状況。
さらに、ティナはアイクの前妻の子供たちまでも分け隔てなく育てていました。にもかかわらず、アイクは周囲の女性にも手を出し、家庭内での支配を強めていきます。
友人たちは「すぐに別れなさい」と忠告しますが、ティナはそれを受け入れることができませんでした。なぜなら、幼少期に両親から見捨てられた彼女にとって、「家庭」は何よりも大切なものであり、それを失うことは自分自身の存在を否定することに思えたからです。
ついに訪れた転機
心身ともに限界に達したティナは、一度自殺を図ります。幸いにも一命は取りとめましたが、それでもアイクの暴力は止まりませんでした。
ある日、ティナはついに決断します。暴力を受けた直後、わずか5セントを握りしめてホテルに飛び込み、逃亡を果たします。そして、全ての財産や楽曲の権利を放棄し、無一文の状態で離婚を成立させるのです。
「ロックの女王」への再出発
離婚後のティナは、40代にして音楽キャリアをゼロから再スタートさせます。年齢も、人種も、性別も、全てが彼女に不利に働く中、ただ一つ「自分自身を取り戻す」という強い意志だけを頼りに。
彼女の再起の原動力となったのは、日本の仏教の一宗派(日蓮宗系)への深い信仰でした。精神的な支えを得た彼女は、力強く生き直し、ソロシンガーとして再び音楽界のトップに立ちます。
1984年にリリースされたアルバム『Private Dancer』は世界的な大ヒットとなり、シングル「What’s Love Got to Do with It」はグラミー賞を獲得。ティナ・ターナーは「ロックの女王」として、完全な復活を遂げたのです。
最後に——この映画が語りかけるもの
『TINA/ティナ』は、単なるミュージシャンの伝記映画ではありません。DVやモラハラに苦しむ人々が直面する現実、抜け出せない心理的な縛り、そして「本当の意味での自立」について深く描かれています。
現在、同じような苦しみを抱えている人にとって、この映画は「自分も変われるかもしれない」という希望の光になるはずです。
少々宗教色が強いため、配信サービスでは扱いが少ない作品ではありますが、DVDやレンタルなどでぜひ一度ご覧いただきたい一作です。