長らく『利己的な遺伝子』に代表されるように、弱肉強食の戦いを生き抜いてきた遺伝子だけが生き残るという説が有力でした。それに真っ向から異を唱えた本がニコラ・ライハニ著『「協力」の生命全史 進化と淘汰がもたらした集団の力学』です。
生命は協力することで生き残り進化してきたというのです。本の中の一節から人間は生物学的には一夫一婦制なのかそれとも一夫多妻制なのかを考察します。
離婚率が高いのは必然? 人類に最適な配偶システムとは?
本書によると動物のオスメスの体の作りは配偶システムを反映しているのだとか。
たとえば、ゴリラは「一夫多妻制」です。群れを支配するボスゴリラだけが、群れのメスを妻にしてハーレムを作っています。ボスになれるオスは一頭だけなので、戦いに勝ち抜くためにオスゴリラの体は必然と大きく逞しくなっているワケです。オス対オスの戦いが重視される種では角や牙など武器となる部位が発達しています。
一方、クジャクはオス同士との戦いはあまりなく、「メスをどれだけ惹きつけることができるか」が勝負のポイント。ということでオス・クジャクの羽は大きくきらびやかになっているのです。
メスゴリラはボスゴリラ以外のオスは相手にせず、ボス以外のオスゴリラは生涯童貞のままの場合も多いようです。そのため多くのオスは精子を作る理由がありません。だからゴリラの精巣は体に対して小さいのだとか。
逆にチンパンジーの精巣は体に対して大きく、ゴリラの200倍近い精子を作ることができます。というのもチンパンジーのメスは発情期になると、多くのオスと交尾するからです。
どのオスチンパンジーにも自分の子供を作れるチャンスがあるため、精巣も大きくなるというワケです。チンパンジー社会の場合、「一婦多夫制」と言っていいでしょう。
では、ゴリラにもチンパンジーにも似ていない人間に最適な配偶システムとはなんでしょうか?
著者ニコラ氏は、人間をゴリラとチンパンジーの中間だと結論づけています。
精巣のシステムはゴリラに近いものの、女性はチンパンジーほどではないにしても、生涯複数の男性と性的関係を持っていたと推測されます。
人間の祖先は一夫一妻制であったものの、生涯一人の人と添い遂げるワケではなく、「連続単婚」即ち、浮気ではなくそのときつき合っている人は一人であるものの、離婚と再婚をくり返していたということです。
人類の祖先の配偶システムから見てみると、現代のように、離婚率が高くなったのは、むしろ自然なことなのかもしれませんね。