自分や自分が身びいきしているものは思いっきり肩入れするけど、自分が嫌いなものや敵と思っているものには思い切り偏見や差別意識を持ってしまう……
そんな認知のゆがみが昨今のハラスメント事件を引き起こしているし、偏ったものの見方がトラブル発生の元です。
常に自分の見方考え方が間違っていないかと、批判的に考え方をチェックするのがクリティカルシンキングの第1歩です。

 

クリティカルシンキングで他人の行動を考察する

他人の行動の原因を判断するケリーの立方体

 

行動の原因は本人の性格や能力にある「内的原因」と本人の外にある環境や状況に「外的原因」に分けられます。
たとえば、嫉妬深い夫の性格が原因で夫婦関係がぎくしゃくしている夫婦の場合、夫の立場から見ると嫉妬は内的原因になり、妻の立場から見ると外的原因になります。
原因をはっきりさせるために心理学者ケリーが開発した立方体モデルが有効です。
事実を人物、対象、状況を三次元の立方体として描いています。

? 人物の次元は一致性の高低
? 対象の次元は別弁性の高低
? 状況の次元は一貫性の高低
を表しています。

一致性と他の人々もその行動をしているか、別弁性とはその行動が特定の対象のみに向けられていたかどうか、一貫性とはいつでも同じ行動をするかどうかです。

先ほどの夫が嫉妬深い夫婦の場合でたとえます。
社員の家族を含めてバーベキューをしたとします。
妻が夫の同僚に親しげにしている様子を見て、夫が嫉妬で激怒して、テーブルをひっくり返しました。

他の同僚達は自分の妻が同僚と話しても、冷静でした。
みんなとは別の行動をとっているので、夫の行動は一致性が低くいと言えます。

また嫉妬は妻の行動だけに向けられているので別弁性が高いと言えます。これが、バーベキューに参加した全てに嫉妬していたら別弁性が低いと言えます。
最後に状況の一致ですが、夫は今回のバーベキューだけでなく妻が異性と話しているだけで、どこでも嫉妬を露わにしていたと分かりました。
すると夫の行動は一貫性が高いことになります。
結局、夫は一致性が低く、別弁性が高く、一貫性が高いことが分かりました。
この形だと、嫉妬する原因は一見夫の内的原因=つまり、生来の嫉妬深い性格が原因と思われるかも知れません。
ところが、妻がかつて会社の同僚と浮気していた過去があったらどうでしょう。
妻の過去の浮気=つまり外的原因があって嫉妬深くなったということもあります。
このように、現実にはほとんどの事例が、内的原因と外的原因が入り交じっています。
一方、一致性、別弁性、一貫性、が高い場合は原因が外部にある可能性が高くなります。
一致性が高い状況、つまり同僚の妻たちが全員、同僚と浮気していたら全員がテーブルをひっくり返してもおかしくありません。
そうなると悪夢ですが、原因は内部ではなく外部にあるのはまちがいないようです。
ちょっと例えが悪かったかもしれませんが、ケリーの立方体についてご理解いただけたでしょうか?

 

真の原因を曇らせる割引原理と割増原理

 

長年応援していたオリンピック代表選手は奮闘しましたが、惜しくもメダルには手に届きませんでした。
それでも、ストイックに競技に取り組んだので、満足していました。
ところが、数年経って選手の不倫が発覚。
実は恋愛体質で、ファンの知らない間では結構恋多き私生活を送っていました。
え? 競技一筋じゃなかったの?
と今まで信じていた分がっかりします。
こうなるとメダルを取れなかったのも、努力が足りなかったんじゃないの?と思ってしまいます。
これを割引原理といいます。
たとえ、結果が出なかったのはケガのせいだとしても、後づけのネガティブ情報に引っ張られて真実を見誤ってしまいます。

逆に先日亡くなった柔道の古賀稔彦さんは、バルセロナオリンピックでケガを負いながらも見事金メダルを獲得しました。
これが、ケガをせずに順当に金メダルを獲得しただけだとこれほど記憶に残ったでしょうか?
逆境を乗り越えてポジティヴな結果を出すと、同じ結果でもよりいい印象を持つようになります。

 

決めつけを作ってしまうステレオタイプ

 

金髪だったらグレている。
医者だったら高収入である。
こういう決めつけをステレオタイプといいます。
ステレオタイプには、外見、肩書き、職業、学歴、などパッと見の情報で、中身を一々見ないでいいというメリットがあります。
しかし、外部情報に惑わされて、最初のイメージで決めつけてしまうというデメリットもあります。
自分の所属するグループに対してはそれぞれユニークな存在だと考えるのに、外部のグループに関してはひとまとめに括って考えるようです。
また、他人の失敗は過度に本人のせいにするのに、自分の失敗は外部のせいにしがちです。
そのくせ自分が成功したら、成功の原因を自分に持っていくものです。
人間はどこまでも自分に甘く人に厳しいようにできているようですね。
人間の思考のクセを把握して、正しく現実を把握したいものです。